「なあ、もくれん、今日はおまえの誕生日だ。シャンパンを楽しもう」
民主主義という病いくんったら、とっても物知りで、なんでも頭に入り
やすいようわかりやすく語ってくれて、私、すっかり虜になってしまったの。
そこへ、
ぴんぽーん♪
誰かが訪ねてきたの。こんな夜中に誰だろうって、わたし、
インターホンの画面をのぞいたの。そして、凍りついたわ。
「誰かしら? ・・・・・ハッ!」
こ、このフォルム。
モニター越しでもわかったわ。
そう、トリコロールのカラーリングと、あの金のズボン・・・。
「おい、もくれん、誰だよ?」
「い、いいのよ、なんでもないの」
「そんな慌てておかしいじゃないか。どうした、俺が出てやろう」
「だめ! だめよ! ねえ、やめて!」
「お、おまえ・・・一体、誰だ?」
「民主主義という病いだ。おまえこそ誰なんだ!」
「民主主義という病いだ! ここで何してる!」
「ああっ、民主主義という病いくんと、遅れてきた民主主義という病いくん!
やめて、ねえ、ふたりとも。これには理由があるのよ・・・」
「関係ねえっ!」
「やめてーーーーーーーーーーーっ!」
「俺が民主主義という病いだーーーーっ!」
「俺だって民主主義という病いだーーーーっ!」
「日本は民主主義という病いだらけだーーーーーーっ!」
「ふたりともっ、お願い、もうやめてーーーーーっ!
これには理由がっ。もともとうちにいた民主主義という病いくん、
あなたは一昨日、幻冬舎の志儀さんに速達でここへ送られた
民主主義という病い。
そして、遅れてきた民主主義という病いくん、あなた・・・なぜ・・・」
「・・・そうさ。長い旅だった。
俺は、先週の水曜日に幻冬舎を旅立った民主主義という病い。
しかし、手違いで・・・もくれん、おまえの以前のアパートを訪ねて
しまったのさ。慌てたよ。いまも凄いが、以前のアパートも凄いな。
さまよいさまよった俺は、一度幻冬舎に戻り、そして、きのう、
再びこの住所を教わって訪ねなおしたってわけさ。
しかしもう遅かったようだな。
おまえのもとには、もうこんなに立派な民主主義という病いが・・・」
「だって・・・だって、私、待てなかったのよ・・・。打ち合わせの席で、
読んでいないの私だけで・・・早く会いたいばっかりに・・・。
ごめんなさい、民主主義という病いくん・・・」
「いいのさ。俺にはまだまだ行くべき場所がある。
俺を待っているのは、なにもおまえだけじゃないんだ。
じゃあ、俺は行くぜ」
「ちょ、待てよ!」
「民主主義という病い、おまえにそんな事情があったとは知らなかった。
しかし、こうして命をかけて張り合ったんだ。いいじゃないか。
一杯やろう。今夜はじっくり、語り合おうじゃないか。
もちろんおまえのなかにもあるんだろう?
『カフェ・ド・フロール』の、あの時間が」
「ああ、俺もおまえも、同じ『民主主義という病い』だからな」
こうしていま、わたしは2冊の民主主義という病いくんとともに、
過ごしているのです。
―完―